51歳、それでも。大阪市中心部で一戸建てを建てる。第5話

第5話 ここだ。

目の前に広がる土地を、私は静かに見つめていた。

何度も画面の中で見てきた土地。

そして今日、初めて自分の足で立った場所だった。

朝の光が建物の間から差し込み、小さな土地をやさしく照らしている。

私は、その景色から目を離すことができなかった。

ここへ来るまで、私は何度も土地を見に行った。

大阪市中心部だけではない。

少し郊外へ足を延ばしたこともある。

広い土地。

価格が手頃な土地。

駅に近い土地。

条件だけを見れば、「ここでいいのでは」と思う土地もあった。

それでも最後は決められなかった。

「毎日ここで暮らしたい。」

その気持ちだけは、どうしても湧いてこなかったからだ。

だからこそ、この街は特別だった。

昔から、住んでみたいと思っていた街の一つ。

便利さだけではない。

街を歩く人の表情。

歴史ある商店街の活気。

新しい店と昔ながらの店が自然に溶け合う景色。

ここには、人が暮らしてきた時間が流れていた。

しかし、目の前の現実は決して甘くなかった。

土地の広さは約37平方メートル。

約11坪。

価格は3,680万円。

数字だけ見れば、決して安くない。

むしろ、「この広さで、この価格か」と思う人もいるだろう。

私自身も、そう思った。

「本当に、この土地でいいのだろうか。」

広さを優先するなら、他にも候補はあった。

価格だけを考えるなら、もっと条件の良い土地もあった。

頭の中では、何度も計算を繰り返していた。

それでも、心は別の答えを出そうとしていた。

私は道路の反対側へ渡り、もう一度土地を眺めた。

不思議だった。

37平方メートルという数字ほど、狭くは感じなかった。

空を見上げる。

風が通り抜ける。

街の音が耳に届く。

写真でも、図面でも分からなかったものが、そこにはあった。

そういえば、宅地建物取引士の資格を取ったとき、土地は数字で判断するものだと思っていた。

面積。

建ぺい率。

容積率。

接道。

用途地域。

もちろん、それらは家づくりには欠かせない。

でも、実際にその土地へ立って初めて気づいた。

数字だけでは、人は暮らせない。

街の空気。

人の温かさ。

歩く速度。

朝の光。

そのすべてが、「暮らし」になるのだ。

私は目を閉じた。

まだ家は建っていない。

それなのに、未来だけははっきりと見えた。

玄関のドアを開ける自分。

二階の窓から差し込む朝の光。

休日には、近くの商店街までパンを買いに歩く。

帰り道には、コーヒーの香りが漂う。

そんな何気ない毎日が、ごく自然に思い浮かんだ。

これまで何件もの土地を見てきた。

そのたびに期待し、そのたびに諦めた。

広い土地もあった。

安い土地もあった。

条件の良い土地もあった。

でも、どれも「ここで暮らす未来」は見えなかった。

この土地だけは違った。

37平方メートル。

3,680万円。

決して理想の条件ではない。

それでも、この街で暮らしたい。

その気持ちは、数字を超えていた。

その瞬間、心の中で自然と言葉が浮かんだ。

「ここだ。」

声には出さなかった。

誰かに伝えたわけでもない。

でも、その一言は、これまで見てきた何件もの土地があったからこそ生まれた答えだった。

私は最後にもう一度だけ、その土地を見つめる。

朝の光は変わらず、静かに降り注いでいた。

その日、私が見つけたのは土地ではない。

これから何十年も暮らしたいと思える場所だった。


次回予告

第6話

「帰り道、それでも振り返ってしまった」

土地を離れても、心だけはまだあの街に残っていた。

駅へ向かう途中、私は何度も振り返る。

そのたびに思う。

「また来よう。」

家づくりは、契約をした日ではなく、帰り道から始まっていたのかもしれない。

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