51歳、それでも。大阪市中心部で一戸建てを建てる。第2話

第2話 朝一番に開くもの

朝、目が覚める。

カーテンの隙間から、やわらかな光が部屋に差し込む。

静かな部屋の中で、私は枕元に置いたスマートフォンを手に取る。

ニュースを見るわけではない。

メールを確認するわけでもない。

SNSを開くこともない。

私の指は、迷うことなく一つのアプリへ向かっていた。

SUUMO。

画面が開く。

昨夜と同じ物件が並んでいる。

新着は、まだない。

それでも私は、毎朝この画面を見ることが楽しみだった。

淹れたばかりのコーヒーから湯気が立つ。

マグカップを片手に、物件を一つひとつ眺めていく。

「この土地なら、どんな家が建つだろう。」

「駅までは歩いて何分だろう。」

「休日はどんな景色が見えるだろう。」

気づけば私は、土地を探しているのではなく、その先にある暮らしを思い描いていた。

まだ存在しない家で、休日の朝を過ごす自分。

窓を開けると風が入り、近くのパン屋まで歩いていく。

そんな何気ない日常を想像する時間が、何より好きだった。

昼休み。

昼食を終えると、私はまたスマートフォンを開く。

変わっていない。

それでも、次の更新では何かが変わるかもしれない。

そんな期待があった。

仕事帰りの電車でも同じだった。

吊り革につかまりながら、片手でスマートフォンを操作する。

地図を眺めながら、頭の中では見知らぬ街の休日が広がっていく。

駅前のパン屋。

少し歩いた先の公園。

まだ見ぬベランダから眺める夕焼け。

「もし、この街に住んだら。」

その想像だけで、疲れた一日の終わりが少しだけ明るくなった。

夜。

布団に入ってからも、最後に開くのはSUUMOだった。

隣で家族がくすりと笑う。

「また見てるの?」

その一言に、自分でも笑ってしまう。

確かに、見過ぎだった。

でも、不思議と苦ではなかった。

むしろ、一日に何度も未来へ会いに行っているような感覚だった。

今振り返ると、あの時間は土地探しではなかったのだと思う。

自分の人生を探していた時間だった。

どこに住むか。

どんな家を建てるか。

それ以上に、

これから、どんな人生を歩みたいのか。

その答えを探していたのかもしれない。

まだ土地は見つかっていない。

工務店も決まっていない。

住宅ローンも申し込んでいない。

傍から見れば、何も始まっていないように見えた。

でも、本当は違った。

夢は、毎日少しずつ育っていた。

その夢を育てていたのは、特別な出来事ではない。

毎朝。

毎昼。

毎晩。

私は今日もSUUMOを開く。

あの頃は、ただ土地を探しているだけだと思っていた。

でも違った。

私は、未来の自分を探していたのだ。


次回予告

第3話 更新ボタンの向こう側

更新。

更新。

更新。

何度押しても昨日と同じ画面。

それでも私は、今日も更新ボタンを押す。

そして、ある日の午後。

画面に、今まで見たことのない一つの土地が現れた。

その瞬間、胸の鼓動が少しだけ速くなった。

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